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保護者インタビューまなざし「ある日突然、ガラッと人生が変わる」

保護者インタビュー 「まなざし」 第2回

「ある日突然、ガラッと人生が変わる」

Y.Eさん(岩手県 40代)

 

あしなが育英会が支援する遺児のうち、自死で親を亡くした学生は、全体のおよそ15%を占めています。今日は、伴侶を自死で亡くされたY.Eさんに、お話しをうかがいました。

 
大きな変化は突然やってくる
 

「2014年の3月、夫は転勤が決まって、多忙を極めていました。仕事の引継ぎ、新しい職場の準備、引っ越し、転校、職場の人間関係…多くのことが重なって、段々眠れなくなってしまい…。変だなと思って、心療内科を受診して、うつ病の診断を受けて、そこからほんの1日半後、夫は自死してしまいました。」

 

Y.Eさんは、うつ病と診断された夫を支えようと心の準備をしはじめた矢先、支える機会も得ないまま、大切な人を失ってしまった。突然の出来事だった。

「夫は1ヶ月という短い間に、全く別人のようになってしまいました。別人格になってしまいました。うつ病がそうしたのですが。本当に、アッという間の出来事でした」

 

3月のはじめに家族でショッピングモールを訪れた時、マラソンが趣味だった夫のEさんは、スポーツ店で新しいジョギングウェアとジョギングシューズを購入した。

「春になったら、これを着て走ろうという前向きな気持ちでいました。それが、ほんの1ケ月の間に全てが変わってしまいました。転勤の準備で忙殺され、夫の対応能力を超えてしまったのだと思います」

 

うつ病の診断を受けて、休職することも決まった。しかし、新しい職場に赴任すると同時に療養生活に入ることで、職場にも、家族にも迷惑をかけるとEさんは焦っていたという。

「亡くなるまでの数日間は、前向きな言葉と、後ろ向きな言葉が交互に出ていました。うつ病と分かってからは、励ますのはよくないと思い、『いくら時間がかかってもいいよ、ずっと家で休んでいていいよ。薬を飲んで、ゆっくり休んで』と、伝えていたのです。しかし、『家族にも、職場にも迷惑かける』と繰り返していて。闘病する間もなく、ちょっとしたスキに外に出て、亡くなってしまいました」

子どもたちには、父親が病気になったことを伝える間もなかった。

「驚きというよりは、受け入れられない出来事でした。ある日突然、1日で人生がガラッと変わった、という感じでした。しかし、受け入れるしかありませんでした」

 

家族思いのいい夫、いいお父さん
 

「夫は、仕事が忙しくても、休みの日には家族を外に連れ出してくれる人でした。広い家だったのに、狭い一部屋にみんなで集まって。家族で過ごす時間を大事にしてくれました。本当に、とても、幸せでした」

 

Y.Eさんが短大を卒業したとき、世間は就職氷河期のまっただ中だった。就職難ということもあり、6歳年上のEさんと、卒業後すぐに結婚すると決めた。そこからずっと専業主婦として家族を支えてきた。

「夫はマラソンが趣味で。子どもたちとも、よく一緒に走ったり、鬼ごっこをしたりしてくれました。仲良し親子で、子どもたちはお父さんが大好きでした。子どもが大きくなってからも、一緒にマラソンに出たかったのか、『走ろう』と誘っていました。小学校高学年になった娘には、ちょっとうっとうしかったかもしれませんけれど(笑)」

家族思いで、頼りになる、いい父親でいい夫。その人を突然に失うとは、誰にも予想できなかった。

「うつ病のせいで、夫の思考回路は全くおかしくなっていました。『自分が生きていると家族に迷惑が掛かる』『自分は家族を不幸にする』『自分がいなくなれば、家族は幸せになる』と、真から思い込んでいたのです」

 

病気ならではの思い込み。でも、それならば…と、家族で考えた。「それならば、本当に幸せにならなくちゃいけない。今まで通りに生活しよう。明るく生きよう」

子どもたちは3月に転校する予定だったので、4月からは、Y.Eさんの実家の近くに転校をして、新生活を始めた。

 

「私も、子どもたちも、ワーーッと泣くようなことは1度もありませんでした。なるべく明るく、なるべく普通に過ごすように努めました。お父さんは単身赴任で1人だけいない、というような感覚で、彼が死んだことは他人事のような、どこか、現実ではないような感覚だったのかもしれません」

それが、自分たちの自己防衛本能だったのかもしれない、とY.Eさんは当時を振り返る。

「そのおかげで、食べることもできたし、眠ることもできたし、笑うこともできた」

 

 Eさんは、自死する前日まで「お前と子どもたちには迷惑をかけるなぁ」と話していた。だから、メソメソするのは、彼が望まないのでは?と、Y.Eさんは、自分の感情に蓋をした。子どもたち2人も、父親が亡くなって間もなく新学期が始まったが、休まず学校に通った。まるで何事もなかったかのように、全員が普通に振舞った。

 

泣けるようになるハードルは高かった
 

「働いたことがない自分に、仕事が出来るのだろうか?」

葬儀などが終わって、就労を考え始めた時、手を差し伸べてくれたのは、夫の職場だった。

「3年という期限付きの非正規職員ではありましたが、私を雇ってくれたのは、本当に有難かったです。職歴が無いと、仕事を探すのも難しいものです。心に余裕がない時期だけに、すぐに仕事に就けたのは、大きな助けでした」

 

しかし、周囲には夫と死別していることは、なかなか話せなかった。それは、子どもたちも同じだった

「特に、自死の場合、話を聞いた人がショックを受けたり、受け止められなかったりするので、不用意に口にできないのです。相当、仲のいい人でも、どこまで話していいものかと気を遣う。相手も、こちらに気を遣うといった具合で。子どもたちも、周囲には全く話をしていませんでした」

 

2年が過ぎたころ、あしなが育英会の「全国小中学生遺児のつどい」や「ワンデイプログラム」のことを知った。あしながレインボーハウスで行われているケアプログラムのことだ。Y.Eさんたちは、高速バスや新幹線に乗って、仙台や東京のプログラムに参加した。

「レインボーハウスに集まる人は、みんな死別体験をしています。同じ境遇の人たちなので、気を遣わずに全部を話せるのが嬉しかったです。自分の気持ち、自分の体験をそのまま話せる。普通は秘密にしていることも、そこでは話せるのです」

 

子どもたちも、レインボーハウスには喜んで通った。レインボーハウスでは、子どもたちと保護者は別れて、それぞれのプログラムに参加する。

「レインボーハウスでは、自分のやりたことを、自分のペースでできるというのが嬉しかったみたいです。下の子は、新しい環境や知らない人が苦手なのですが、レインボーハウスでは、安心して過ごしていました」

 

保護者は、おしゃべりをしたり、グループで体験の分かち合いをしたりして過ごす。

「自死はデリケートな話題だったので、外で話すのは心配でした。でも、レインボーハウスには受け止めてくれる人がいて話しやすかったです。心の内をぶちまけて、すっきりして帰ってこられるのが、すごくよかったです」

人の話を聞くのもいい作用があった、という。

「人の話は、とても共感できる時と、受け止める余裕がない時とがあり、自分の状態を客観的に知ることができるのです。例えば誰かが「忙しい」と話すのを聞くだけでも、なぜか自分が辛くなる時と、『あぁ、忙しいんだね』と普通に聞ける時とがあるのです。人の話を聞くことで、自分の状態を俯瞰して見られるのです」

 

いつもと違うところへ行って、亡くなった人のことをボーっと考えて、おしゃべりをする。それがとても大事な時間だった、とY.Eさん。

「下の子が中学を卒業した時、小中学生遺児のつどい最後の参加機会があって、その時、夫の話をしながら、初めて泣くことが出来ました。死別から5年が経っていました。義務教育を終えられたという安堵から、心に一区切りがついたのかもしれません。泣くというハードルは、私にとって、とても高かったです」

 

あしながで子どもの未来が開けた
 

「全国小中学生遺児のつどい」や「ワンデイプログラム」を通じて、心塾の塾生や大学生と知り合う機会ができた。遺児家庭でも、大学に進学できることを知った。

「どこかで、親が亡くなると、世界が狭くなる、大学など行けなくなるだろう思っていました。しかし、あしなが心塾の学生が、自分たちと同じ境遇から大学へ行ったよ、留学もしたよ、つどいや募金でリーダーを務めているよ、と話してくれて、希望を持つことができました。それだけでもあしながとの出会いは大きいです」

 

父親を失った時に、10歳だった長男は、現在、高校2年生になっている。12歳だった長女は19歳になり、東京の大学で福祉の勉強をしている。あの頃、憧れを持って見ていた東京の大学生に、自分の娘も仲間入りした。コロナ禍ではあるけれど、活き活きとした大学生活を送って欲しいと願う。そして、2人には、あの頃自分たちを引っ張ってくれた大学生のお兄さん、お姉さんのように、続く子どもたちを引っ張っていって欲しい。

 

(インタビュー 田上菜奈)

 

あしながレインボーハウス、ケアプログラムの詳細はこちらよりご覧いただけます。

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