自爆テロから2年。スリランカの遺児たちに心のケアを
200名以上が犠牲となった自爆テロ
2019年4月21日にスリランカで起きた自爆テロ。200名以上の命が犠牲になりました。
母国の悲惨なニュースを耳にしたスリランカ出身のチャンディマ・ラクマリー職員は、いてもたってもいられず、なんとか現地の人たちの力になりたいと考えていました。すぐに現地の支援団体「サルボダヤ(Sarvodaya)」にコンタクトし、現地の様子とニーズを確認。心のケアのためのサポートが必要だということがわかりました。
そこであしなが育英会の心のケア事業部に相談したところ、サルボダヤとあしなが育英会のノウハウを使ってテロ遺児に心のケアプログラムを提供するとともに、現地での継続的な支援体制を構築するために現地スタッフのトレーニングプログラムを行うということが決定しました。
しかし、そのための予算は用意されていません。そこで彼女はスリランカの支援のため、あしなが育英会初めての試みとして、クラウドファンディングプロジェクト『故郷スリランカの子どもたちへ、心のケアのバトンをつなぎたい』を開設。620,000円以上もの寄付金を募ることに成功し、テロから半年後の2019年10月、5名のあしなが育英会職員とともにスリランカを訪れました。
クラウドファンディング『故郷スリランカの子どもたちへ、心のケアのバトンをつなぎたい』(2019年9月終了)
テロで破壊された建物
心のケアで子どもたちに笑顔を
残念ながらスリランカではメンタルヘルスに対する理解がまだ浅く、心のケアという概念もあまり知られていません。精神的な悩みや心の傷を抱えている人々が差別を受けることも多々あります。しかし、テロや自然災害などが原因で突然訪れる大切な人との死別によるショックは、長年心に潜み、深い傷になってしまうことも稀ではありません。
2019年10月に実施した現地プログラムでは、プログラムで実際に子どもたちと関わる役割の「ファシリテーター」をしてくれるボランティアを募り、事前に2日間の講座を実施することにしました。
講座にはなんと50名以上のボランティアが参加。スリランカの人々の心のケアへの関心の高さがうかがえました。
あしなが育英会職員が意識したのは、あしながの心のケアの要である「リードする」のではなく「手助けする」関わり方を伝えること。日本語で培ってきたノウハウを上手く英語で伝えるために、入念な事前準備も行いました。
工夫の甲斐あって、あしなが育英会職員も参加者も、お互いが子どもたちを手助けする仲間として一緒に学び考える、そんな時間を共有できた素晴らしい場となりました。プログラムで使用した資料はこちらからご覧いただけます。(英語のみ)
そしてケアプログラム当日は、82名の子どもたちと30名の保護者が集まり、彼らを支えるファシリテーターとして56人が参加してくれました。子どもたちは楽しそうにゲームをしたり、おやつを食べたり、班ごとに話をしたり、新しい友達を作ったり、充実した時間を過ごしてくれたようです。人種、言語、国籍など様々な違いを超えて、みんなでひとつの時間を共有することは、私たちあしなが育英会職員にとっても、大変心温まるものでした。
プログラムに参加して笑顔を見せる子どもたち
わかりやすく英語で伝える工夫をしました
歴代の奨学生たちが広げてきた支援活動の輪
チャンディマ職員は、あしながの支援を受けた海外遺児のひとりです。
2004年に発生したインド洋スマトラ大地震による津波で、父親を亡くしました。彼女が中学卒業試験を終えた直後のことでした。
遺児となった彼女はサルボダヤからサポートを受けていましたが、同団体からの紹介で2005年、あしなが育英会が世界各国から災害遺児を招待して開催した「サマーキャンプ」に参加することになります。そのキャンプがきっかけとなり、高校卒業時にあしながの海外遺児向け奨学金制度に応募し、早稲田大学に進学しました。
チャンディマ職員は在学中、街頭募金活動やあしなが育英会のケアプログラム「サマーキャンプ」にも参加し、後輩たちのサポートを続けてきました。卒業後は、それまで支えてくれたあしながさんへ感謝の気持ちを胸に、「これからも後輩たちを支援し続けたい」とあしなが育英会に就職しました。
私たちあしなが育英会は遺児への奨学金支援だけではなく、子どもたちへの心のケア支援、様々な人材育成プログラム、国際交流活動など、国内外で多岐にわたる活動を行ってきました。その背景にあるのが、昔から変わらずにあしなが奨学生たちが大切にしてきた、後輩たちへの「恩送り」の気持ちです。
この気持ちをもった奨学生自身が当事者として活動に携わってきたからこそ、様々な活動が、長い時間をかけて発展しながら続いてきました。
今年はスマトラ地震発生から17年、東日本大震災から10年、そしてスリランカ同時多発テロ事件から2年が経ちます。
時を重ねてから現れる痛みや、時間が経過した後だからこそ必要な心のケアにも今後しっかりと向き合っていく必要があります。サルボダヤで研修を受けたファシリテーターのみなさんが、スリランカ式の心のケアの発展に取り組み、近い将来、スリランカの子どもたちと笑顔で再会できることを願っています。
チャンディマ職員(右)と同行した斎藤イングリッド職員(左)=スリランカにて
◆動画もぜひご覧ください。
スリランカ自爆テロから2年。心のケアで子どもたちに笑顔を