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射止めた! 国立大学とあしなが心塾
 大寒の弓道場。的を凝視し、弓を引いて満を持す。放たれた矢は的中した。

 Tさんは、2年前に双子の兄・Dさんに誘われて弓道を始めた。

 「的に当てるのではなく当たる」と教わった。欲を出さず冷静な明鏡止水の心なら当たるという。的以外は何も見えず、何も聞こえない。その日は12本中8本が的中し、Tさんの自己最高記録を更新した。

 「世界一の大たいまつに火のついた矢で点火したい」ことが憧れだった。

国東半島のつけ根に位置する大分・豊後高田の裸祭りは、900年以上の伝統を持つ。川の中に立てられた長さ16メートル、重さ5トンもの世界一の大たいまつが火矢で点火され、祭りは最高潮を迎える。弓道初段で火矢を射ることができる。昨年秋、兄弟そろって昇段し、念願の火矢を射った。途中で火は消えたが、あの感動は忘れられない。

 Tさん兄弟の小学校入学の前日、父・Kさん(57)が脳内出血で倒れた。Tさんは入院中の父を見て「死んじゃうのでは」と怖かった。Kさんは退院したが、右半身マヒの後遺症は今も続く。母・Oさん(53)は助産師として働いている。家族は中学3年の弟・Sさんを含めて5人だ。

 小学生のころ、大志さんは友だちが家に遊びにくるのがいやだった。体の不自由な父を見られたくなかったからだ。「友だちはもっとお小遣いもらえるのに」と父にあたると、「ウチはウチじゃ」と言う口うるさい父が大嫌いだった。

 昨年夏、神戸での大学奨学生採用試験がTさんの転機だった。初めて同じ境遇の仲間に出会い、語り明かした。説明会で玉井会長や面接官の職員の話を聞いて「とことん僕たちのことを思ってくれている」と感じ、可能性いっぱいの未来にワクワクした。その足で東京の大学の下見に。国立大の電気通信大学という「的」以外は眼に入らなくなった。

 Tさんは学習塾に通ったことがない。学校に遅くまで残って自習し、先生を質問攻めにした。1年の頃は全校で50位台の成績から2位に急上昇した。「目標に向かう意志が強くそれを貫く力がある。礼儀正しくてやさしい生徒」と、担任の先生は話す。

 11月の同大学理工学部の推薦入試で上京したTさんは、建設中の「あしなが心塾」を見学して新しい「的」が増えた。仮学生寮で、難関の東京芸大大学院建築専攻に進学を決めた塾生先輩の話に刺激を受けた。

 しかし、思考力を問われる難問の論述試験で手応えはまったくなかった。受験後、父が真顔で話した。父は東京の私立大学で苦学したこと。当初、母はTさんの上京に大反対だったが父が説得したこと。そして、人間はやさしすぎてはダメだということ。

 「口うるさかったのは僕を思ってのことだったんだ」と父の大きさを肌で感じた。小学生から今までの父への思いとその変化をつづった作文が、本年度県北部地区の人権作文集優秀賞に選ばれた。

 昨年末に入試の結果発表が郵送されたが、「どうせ落ちているから」とTさんは封を切らなかった。「九分九厘は合格」と確信していたKさんが開封した。合格通知だった。Tさんは絶叫し、家の外まで駆け回って喜んだ。Oさんは涙を流しTさんを抱きしめた。Kさんは「『親父が動けんけ、わしが教えちゃる』と近所のおいちゃんたちがいつも大志らを育ててくれた。周りの方々のおかげ」と目を細めた。

 Tさんは、父がつけてくれた名前をとても気に入っている。名の意味あいは、「多くの人とつながること」。将来は、人と関わりながら開発のできるエンジニアになりたい。

 「あしなが心塾は、24時間、人とつながり放題ですよね」と、さわやかで元気ハツラツな大志さん。入塾する『春』が待ち遠しくてたまらない。(小河光治記者)
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